ポンプの「全揚程」とは? なぜメートル? 流量とセットで超重要な指標

ポンプ

ポンプの銘盤や仕様書を見ると、

  • 吐出し量  ○○ t/h
  • 全揚程   ○○ m
  • 電動機出力 ○○ kW
  • 定格電流  ○○ A

などが書いてあります。
ここで、「揚程?」、「全揚程?」、「なぜメートル?」って、思ったことはないですか?
この記事では全揚程とは何かを解説します。揚程という用語はポンプを扱って初めて目にする方が多いと思いますが、非常に大事な考え方なので、ぜひ覚えてください。

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「全揚程」とは

全揚程をズバッと一言で説明すると、

ポンプが作動流体に与える有効な全エネルギーを、水頭(ヘッド)で表したもの。です。

この説明で納得のいく方はよくわかっていらっしゃると思いますので、読み飛ばしてください。この説明でイマイチ納得ができない方、これからじっくり解説していきますので、ぜひ最後まで読んでください。

解説① 揚程(ようてい)とは

“全”揚程の前に、まずは”揚程”から。

“揚程”とは、ポンプが水を何メートル高いところまで汲み上げることができるか、その能力を示したもの。つまり、ポンプが持つ汲み上げ能力です。単位は通常、メートルです。

揚程とは別に、ポンプの能力を表すものに、”流量”(吐出し量)があります。流量とは、一定の時間で汲み上げることができる流体の量を示しており、イメージがしやすいですね。しかし、いくら大流量のポンプを準備しても、目的の高さまで汲み上げることができなければ意味がありません。揚程は、流量と並んで、ポンプの能力を表すのに最も重要な指標と言えます。

従って、ポンプの能力は揚程と流量のセットで表します。どちらか一方が欠けると、ポンプの能力を正確に表現できません。またどちらか一方の数値が要求を満足しないと、機能を果たせなくなります。

ポンプの揚程流量は、スマホに例えるなら、処理速度メモリ容量みたいな感じ。

一方の数値が要求を満足しないと機能を果たせなくなりますが、かといって、どちらの数値も大きければ良いという訳ではありません。オーバースペックだと余分なコストがかかるので、目的に合ったものを選ぶ必要があります。

解説② 実揚程と全揚程の違い

ポンプを購入するプラント設計者(男性)とポンプメーカー担当者(女性)の会話をご覧ください。

地上から20メートルの高さにあるタンクまで水を汲み上げたいので、揚程20mのポンプをください。

はい、どうぞ。

設置して運転してみたんですが、タンクまで水が来ません! このポンプ、不良品じゃないの?

ちゃんと要求を満たしてますよ。それより、屋上のタンクは大気圧なんですか?圧力を加えたりしてないでしょうね?!

いや~そんなことないですよ。(ほんの50kPaほど…だから5メートル分かな)

あと、よく見ると配管にエルボが多いし、途中にいろんな機器があるじゃないですか。それじゃタンクまであがりませんよ!

え〜!そうなの〜! (たぶん3メートル分ぐらいのロスがあるな)

このポンプの揚程は、”トータルで” 20メートル分ですよ!

…だよね〜。よし、ちゃんと計算しよう!

 
実際にこんな会話があったかどうかわかりませんが、プラント設計者とポンプメーカーのやり取りでは、実際に汲み上げる高さだけでなく、押し込む圧力や損失なども考えて、“トータルで”話をしなければいけません。
 
このような誤解を避けるため、実際に汲み上げる高さを示したものを、「実揚程」と言い、高さには表れない圧力や損失も含めたトータルの揚程を、「全揚程」と区別しています。
会話の中では、20メートルが「実揚程」、20+5+3=28メートルが「全揚程」です。プラント設計者は実揚程20メートルではなく、全揚程28メートルのポンプを選定していればよかったことになります。実際には少し余裕を足して、全揚程30メートルのポンプを選定する。っといった感じです。
 

全揚程というのは、実揚程にエネルギー的な考え方をプラスしています。実際には汲み上げ高さには表れていなくても、他の形でポンプが水にエネルギーを与えているので、それらを全部含めないと、ポンプの本当の能力を示せないんですよね。高さ以外の他の形のエネルギーというのは、圧力、流速、配管ロスです。

解説③ 高さで表すための”水頭(ヘッド)”

ここまでで、揚程が汲み上げ能力であり、単位はメートルであること、ポンプは実揚程でけでなく、他にも水にエネルギーを与えており、それらを含めたものが全揚程ということを説明してきました。圧力、流量、配管ロスをどうやって全揚程に取り入れるか。

これを解決するために登場するのが、“水頭”(すいとう)という言葉です。

圧力、流速、配管ロスを全揚程の中に取り入れるために、すべて高さの単位にしてしまおうということ。会話の中で出てきた、タンクの圧力は「5メートル分」、ロスは「3メートル分」のように、「○○メートル分のエネルギー」と表現したもの。

それぞれ、圧力水頭、速度水頭、管路損失水頭と呼び、単位はすべてメートルです。

ちなみに、日本語では、揚程と水頭の2つの用語がありますが、英語ではどちらもヘッドです。水の持つ力学的エネルギーを 水柱の高さ(頂上部の高さ=頭部の位置)で 表わす単位だったため、頭やヘッドという言葉が 使われたのだと思います。
(全揚程= total head, 圧力水頭= pressure head, 速度水頭= velocity  head)

実際のポンプ選定の時には、全てをヘッドで表す事がとても役に立ちます。全てメートル単位で積み上げていけばOK。

  1. ポンプ出口の汲み上げ高さ、圧力、流量などを全て求める。
  2. 定格流量での圧力損失を求める
  3. 最終的に全水頭(全揚程)を割り出す。
  4. 選定すべきポンプの全揚程が判明する。
  5. ポンプメーカは、与えられた全揚程のポンプを設計する

これで、実揚程に圧力水頭、速度水頭、管路損失水頭を加え、全揚程が出来上がるまでの道筋が理解いただけたのではないでしょうか。

まとめ

この記事ではポンプを扱う上で非常に重要な考え方である、「揚程」や「全揚程」とは何かを解説してきました。
ポイントは以下の通りです。

  • 「揚程」は、ポンプの汲み上げ能力
  • ポンプの能力は揚程と流量のセットで表す
  • 「全揚程」は、実揚程に現れないエネルギーを水頭で表して合計したもの
  • ポンプの揚程は、実揚程でなく「全揚程」で見る

参考になればうれしいです。
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